「プリズナートレーニング」
日本語に訳すと「囚人の筋トレ」あるいは「収容者の訓練」といった僕達一般人には関係のない言葉に聞こえます。
しかし、この本はその名前が示す通り単なる筋トレ本だけにとどまらない深いメッセージを内包しています。
ただただ収容者が身体を鍛えた話ではありません。
「本物の強さ」また、限定された環境である監獄の中でも失うことのない「真の自由」への追求を織り交ぜています。
本書では具体的なトレーニング方法が書かれていますが、トレーニング法については割愛し、
僕が感じた、この本のメッセージである本物の強さがもたらす真の自由について紹介したいと思います。
日々を忙しく生き、自由な時間がない、余裕がない現代人にはピッタリの本になっていると思います。
本物の強さとは?
冒頭からかなりエッジの効いた内容が書かれています。
それはどこのジムにもいる屈強な肉体をもったボディビルダーについて「ふくらんだ体を誇示しながらポーズを取る人たち」と揶揄しています。
ここで問われます。彼らは、本当に強いのだろうか?
・片腕だけの腕立て伏せができる人は何人いるだろうか?
・立ったままブリッジ出来る柔軟で強い背骨を持つ人は何人いるだろうか?
・支えを使わずしゃがみ込み、そのまま立ち上がれるのか?
・片腕で懸垂できる人はいるのか?
こうした例を出し、いわゆる自然から授かった自分の体を思う通りに動かせない人たちを強いとみなせるのだろうかと。
フィットネス業界は、マシンを使わなければ強くならないと世界を洗脳してきたと本書では書かれています。
じゃあ本物の強さとはなんなのか?
それは私たちの体の中で眠っている力を解き放つことだと言います。
いきなり中二病みたいな言い回しになっていますが
その体の中に隠れているパワーを解き放つ為の信頼できる技術があり、
それが
キャリステニクス【自分の体重を使い、体を極限まで開発する技術】
です。
【古代から伝わる鍛錬法】キャリステニクスとは?
自分の体重を使って、体を開発する技術であるキャリステニクス
現代ではエアロビクス、サーキットトレーニング、持久力構築の為の一部といった印象になっていて
それはここでいうキャリステニクスとは違う、ただの子供のフィットネス法のように扱われています。
そもそもキャリステニクスとは古代ギリシャの「美」を意味するkalosと「強さ」を意味するsthenosを組み合わせたものです。
ここで想像してみてください。
古代ギリシャと聞いてイメージするあの肖像を。
だいたいが素晴らしい肉体美をしていると思いませんか?
古代ギリシャの肖像ですよ?今みたいなウェイトとかバーベルとかが無い時代に。。
では古代人はどうやって体を鍛えていたのか?それがキャリステニクスだということです。
古代から伝わる自重力トレーニング
体重を利用してエクササイズすると、完璧な体躯とすさまじい筋力を手にすることが出来る。
体を持ち上げる、膝を曲げてジャンプする、腕と脚を使って地球から体を押し離す。結局のところ、こういった自然な動作が私たちがキャリステニクスと呼ぶものに進化してきたと言います。
キャリステニクスのもっとも初期の記録で興味深い話が紹介されています。
それはテルモピュライの戦い(紀元前480年)前夜の話で、神の王クセルクセスが、レオニダス率いるスパルタ軍がいる谷に偵察隊を送った時のことで、戻ってきた偵察隊の報告が
スパルタの戦士たちがキャリステニクスで激しいトレーニングをしているという内容だったそうです。
その報告を受けたクセルクセスは鼻で笑います。
というのも、谷のこちら側にいるクセルクセス率いるペルシャ軍には12万以上の兵士がおり、対するスパルタ軍はわずか300人だったそうです。
撤退して道を開けるか、滅ぶかのどちらかを選べというクセルクセスのメッセージをスパルタ軍が拒否し、テルモピュライの戦いが始まります。そしてギリシャ勢が合流するまで、兵力の少ないスパルタ軍がクセルクセスの大軍をせき止めることになります。
スパルタ人は、日本で昔から言われているスパルタ教育の語源にもなっているぐらい歴史上もっともタフな戦闘種族とみなされています。その彼らが戦闘トレーニングにキャリステニクスを採用していたそうです。これこそがキャリステニクスが本物の強さを手に入れる為の手法であることは明らかです。
実在した20世紀の怪物アスリート
20世紀前半に至っても、自重力トレーニングが強者の伝説のほとんどをつくっていたといいます。
英国で後にレスラーになったバート・アシラティは後方ブリッジをやった後に地面を蹴って片腕立ちになる技で群衆を驚かせたと言います。
しかも109キロを超える体重があったそうです。
1940年、50年代ではカナダのダグ・ヘップバーンは歴史上、最高の重量挙げ選手だと考えられていて、なんと136キロのはかりを壊すほどの体重があり、肩幅はドア枠よりも広かったと言います。
ステロイドが無かった時代にです。
そのヘップバーンが身に着けていたパワーはハンドスタンドプッシュアップつまり逆立ち状態での腕立て伏せで培ったものだと言ったそうです。
体重が100キロ以上のあるのにブリッジをして逆立ち状態での腕立て伏せをする。。
今の時代にここまでのアスリートが本当に存在するのだろうか疑問になります。
もしいないのであればそれはキャリステニクスではなく、近代のウェイトトレーニングで培った強さだからだと言われれば妙に納得がいってしまいます。
歪んでしまった身体文化
強くあること、健康であることは誰もが望んでいることだと思います。
しかし現代的なトレーニングや身体文化が向かっている方向は悲劇的なものだと警鐘を鳴らしています。
横並びになって動かない自転車を静かに漕ぐ、階段ではない階段で足踏みする。毎日の動作にほとんど結びつかない動作を延々とやる。
ジムに行ってわざわざ運動するのに、通勤は車を使い、階段を使わずエレベーターを使う。
テクノロジーが発達し、色々な場所で体を鍛えることが出来るようになった一方で、普段の生活から自然な運動がなくなった。
非常に矛盾した社会になっているように感じます。
これは人類の歴史上初めての出来事だといっても過言ではありません。
先日紹介した最高の体調にも書いていましたが、現代人が抱える健康への悩みや不安と通じるものがあるように思います。
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筋トレ本ではなく哲学書
今回紹介した「プリズナートレーニング」は単なる筋トレ本ではなく、
読者に身体の限界を超えて心の自由へと導く方法を教えてくれます。
この本で取り上げられているポール・ウェイドという人物は監獄という極限の状況下でも絶えず自己改善を追求し、本物の強さを育むための手法としてキャリステニクスを用いたとされています。
キャリステニクスはただ単に筋力を鍛える為の手法ではなく、監獄のなかで正気を保たせてくれるものだったそうです。体を鍛える時間が、健康と体力、そして自尊心を取り戻してくれたといいます。
監獄の中であったとしても自分の頭の中の知識や肉体は誰にも奪われない真の自由なもの。
僕はこの本を読んで時間が無い、自分にはなにもできないと言ったネガティブ感情が馬鹿らしくなりました。
監獄にいる人間が自由を手に入れることが出来ているのにも関わらずなぜ自分は自由を求めているのか?
僕みたいに日々を忙しく生き、余裕がない人は今一度考え直す時期なのかもしれません。
この本は単なる筋トレ本ではなく、人間が本来持つべき真の自由を教えてくれる哲学書だと思います。